哲学的な彼女企画選考結果発表(1)
哲学的な彼女企画選考結果発表(2)
■アイデア評価
今回の企画は、予想外に実力者ぞろいになってしまったため、
たとえば、「
普段小説書いたことないけど、
ぱっと哲学女子のアイデアを思いついて、
さくっとワンシーンだけ書いてみました〜」という作品だと、
思った以上に「読者評価が低い」というさんさんたる結果になりがちです。
しかし、文章力や小説としての出来栄えは度外視して、
「
表現しようと思った、その発想自体」が評価されても
良いのではないでしょうか。
というわけで、以下は若干ネタバレになりますが、各作品で
主催(飲茶)がアイデアとして特に面白いと思ったものを
紹介していきたいと思います。
・「『ぽん』と君は言う」久谷
⇒
「じゃんけんで、あたしが勝ったら、お風呂沸かして」
日常の他愛のないことをいつも「じゃんけん」で
決めてきた「僕と彼女」。
「僕」は決まってグーを出し、「彼女」は決まってパーを出す。
それで「僕と彼女」は丸く収まってきた。
しかし……。
「
じゃんけんで、あたしが勝ったら、別れて」
さぁ、どうする? 普通に考えれば「僕」は別れたくないから、
チョキを出せばいい。いや、だが、相手だって、
いつもの習慣を知っているのだ。だとしたら……、
「彼女が本当に僕と別れたいと思っているケース」
「彼女が別れたくないが、ただ僕の気持ちを試しているケース」
といった考えられるあらゆる状況を想定し、
それぞれのケースで彼女が何を出すかを推測したうえで
どのケースにおいても、「
最悪でも負けない」ような
引き分けを狙う「手」を考えるとしたら……
「
いくわよ! じゃんけん!」
――じゃんけんひとつで、ここまで思索的に盛り上げられるものか、
と「じゃんけんの可能性」を提示する画期的な作品でした。
・「超人少女えたぁなる・ニーチェ」皆本暁
⇒
哲学女子たちの異能バトル。
-------------------------------------
ホッブズ「
行っちゃえ! リヴァイアサン!
リヴァイアサンは誰にも負けない!
強いとか弱いの話じゃないよ、そーゆー風にできてるんだから!」
恐怖による絶対支配の象徴、リヴァイアサン。
ホッブズがそう定義した以上、この大蛇を殺すことは原理的に不可能。
それでも、ニーチェは蛇に向けて一歩踏み出した。
「
何で逃げないの!? この子を見たら、絶対怖くなるはずなのに!」
「
私が何より怖いのは、諦めてしまうことよ!
私が諦めない限り、『力への意志』は必ず私を勝利へと導く!
ツァラトゥストラ!」
-------------------------------------
という感じで燃え燃えで進んでいきます。
単に、特殊能力で相手を倒すだけではなく、
きちんとニーチェの哲学で相手の哲学を打ち負かして勝つのが、
この作品の凄いところ。
「
それが、あなたのルサンチマン」
という哲学少女ニーチェの決め台詞は、最高。
案外、一番商業向きの作品かもしれない。
・「チャーハン大盛り、あ、ご飯抜きで 」svaahaa
⇒
「
チャーハン大盛り、あ、ご飯抜きで」
と定食屋で女の子がいったところから始まる
「チャーハンとは何か」という哲学議論。
「
およそどーでもいいこと」にこだわり
延々と議論をふっかけてくる女の子と、
そしてそれに振り回される僕、という構図。
哲学女子小説には「こういう王道(方向性)がある」というのを
指し示す作品でした。
・「おやつは300円以内、バナナは入るか、からの論」
おっぱいはAカップ
⇒これもさっきと同じ王道パターン。
「
バナナはおやつに入るのか?」という日常のよくあるネタに対して、
「バナナとは何か?」と真面目に議論しようする哲学女子と僕の物語。
-------------------------------------
「バナナチップスがバナナであるとしてしまった上で、
バナナはおやつではないとしたら、
バナナであるバナナチップスもその中に入るわけで、
すなわちバナナチップスもおやつではないとなるわけだから」
「すまん、さっぱりわからん、バナナ言いすぎだぞお前」
-------------------------------------
これらの作品によって
『こだわり型』というカテゴリの哲学女子が具現化されました。
・「チョコレートがあります」フクミハルカ
⇒
「ここに、チョコレートがあります」
「そこに、チョコレートがあります」
という会話の繰り返しがとてもいいです。
この雰囲気で、チョコレートを使って
現象学的に存在論を展開してほしいと思いました。
・「未来のカタチ」じょにぃA
⇒ボスを倒さないと世界の未来はない。
でも、ボスを倒してしまうと記憶が消えて、
(自分が予定していた)未来がなくなる。
「このボタンを押せば、ボスが倒せる」という瀬戸際で、
未来について、アンビバレンツ(あちらを立てればこちらが立たず)
を突きつけられる正義の味方の物語。
「哲学」が題材ってことで、
こういう星新一的な、非日常を舞台にした
皮肉っぽいショートショート(二律背反に追い込まれる物語)が
たくさん投稿されるだろうと思っていましたが、
実際には意外に少なかったので、貴重な作品でした。
・「はかない少女」ジョージ高津
⇒
「
あえてパンツをはかない」。ただそれだけのことによって、
いつもの退屈な日常が、危険で新鮮な非日常に変わる、
と主張する女の子。
ゲームでもそうだけど、「
縛りプレイ」ってなぜあんなに
楽しいのでしょうか。
人生に「縛り」を加えることで生み出される『何か』
というテーマに焦点を合わせて考えてみたくなりました。
・「TTGK48」クロードニュウスキー
⇒TTGK48(てつがく48)というアイドルユニットの
オーディションの話。「哲学者になりきって演じる」という
お題に対して、
「孔子になりきってください」⇒「
はい、子牛ですね」
「墨子になりきってください」⇒「
ええ、牧師ね」
と間違った解釈をしてしまう彼女たち。
僕はツボにはまって面白かったです。
できれば、彼女たちの頓珍漢な演技を
審査員が勝手に「うおお!なんて哲学的なんだ!」と
評価してしまう、というアンジャッシュ的展開だったら
もっと自分好みでした。(笑)
・「ツムグ。」Chia
⇒舞台は合コン。せっかく下らない話でみんな盛り上がっているのに、
真面目な返答をして場を白けさせる哲学女子、という物語。
「空気が読めず、他人から煙たがられている哲学女子」に対して、
「僕」だけが「彼女の魅力」に気づいているという関係性が重要。
そして、「僕」から積極的に哲学女子にアプローチすることで、
「え?そ、そんなこと言われたのはじめて」的に哲学女子を
ドギマギさせて、デレさせていく、というラブコメ展開がGOOD!
これも哲学女子小説の王道(方向性)になりえると思います。
・「一刀両断」まがるストロー
⇒
現実主義で、何でも「
一刀両断」してしまう女の子という設定。
その新規性のある設定でもう少し書いてみてほしかったです。
恋愛とか「一刀両断」できない問題に立ち向かうとか。
最後に道元禅師の「
一刀一断」に目覚めるとか。
■作品分析
全作品について、登場する哲学女子のカテゴリ分けを行い、
どんなタイプの哲学女子が多かったか、を調べて傾向を分析し、
次の世代のための何かを残そう……
と思って、途中までやって表にまとめていたのですが、
すみません、予想以上の投稿数で最後までできませんでした。(^^;
とりあえず、途中までやったカテゴリ分け。
@天然型:
あまり哲学に詳しくはないが、ふとしたときに周りがはっとするようなことを
言ってしまう天然型の女の子。
「子供こそが最高の哲学者である」という言葉を体言したタイプ。
(例)
・「
日常と勉強と少々の哲学」島中栄一郎
・「
哲学的な彼氏企画」橙。
⇒
-------------------------------------
「わたしにとっての事実は絶対に事実だし、
まわりがどう言おうとそれはわたしの事実を、わたしの世界を
変えられるものじゃないんだよ。
『しゅかん』に勝てる『きゃっかん』なんてないんじゃないかな?」
-------------------------------------
A屁理屈型:
自分の目的(欲望)の遂行のためなら、屁理屈も辞さない。
無理やりな議論をふっかけて、主人公を振り回すタイプ。
(例)
・「
駄目だっ。コイツなんとかしないとっ!」ダイちゃん
⇒
テンション高く、色んな哲学理論やうんちくを降りまわして、
自分の意を押し通そうとする我ままキャラクターは、
うまくはまるとそれだけで面白い作品になりそうです。
少しタイプは違うが、屁理屈型としては、以下が秀逸。
・「
クリスマスの過ごし方 by 土屋的な彼女」
Bこだわり型:
およそどーでもいいことに、こだわってしまうタイプの女の子。
(例)
・「
チャーハン大盛り、あ、ご飯抜きで 」svaahaa
C迂遠(回りくどい)型:
なんか小難しいことを言ってくると思ったら、
実は単に「好きだと言いたかっただけ」
または「好きだと言ってほしかっただけ」だった……
という女の子。
回りくどいが、そこが「萌え」ポイント。
(例)
・「
俺と彼女の明確な温度差」維川 千四号
D孤高型:
思索的で内向的で、常に「哲学的な何か」を求めて考え込んだり、
本を読んでいるタイプの女の子。
たいていの場合、友達が少なく、理解者も少なく、
近づきがたい雰囲気を持っている。
しかし、その「近づきがたさ」を乗り越えたとき、
「哲デレ」状態があらわれる。
ちなみに、大賞作品「
シャッターボタンを全押しにして」は、
孤高型であると思われる。
(続く)