「では、次の年から『投資カード』を追加します」
突然の新ルール追加。
僕は直感した。いま「一回戦」が終了したんだ、と。
価格破壊に付き合って、馬鹿な売り方をした経営者は
ここで実質上、リタイア。おそらく次は、
冷静に対処した「勝ち組」の経営者同士で、
凌ぎをけずる「二回戦」がこれからはじまるのだろう。
講師は、僕たちに小さな冊子を配り始めた。
それは、これから新しく追加される「投資カード」の説明書だった。
配り終えた講師は、こう言った。
「では、ここで午前中の授業を終了したいと思います。
お昼休みは、少し長めにとって、1時間30分とします」
こうして、午前中の戦いが終わり、みな席を立って昼食を取りにいった。
僕はと言えば、その場にとどまり、さっそく説明書を開いていた。
新しいカードの内容をはやく把握したかったのだ。
もしかしたら、追加されたカードの中に、
今の状況を逆転できる画期的なものがあるかもしれない。
もしくは、仮にそうでなくても、
追加ルールの「裏」をつくような
画期的な「戦略」が思いつくかもしれない。
そう考えた僕は、説明書を食い入るように眺めた。
つまるところ、追加された投資カードとは、以下の3種類のものだった。
(1)研究開発カード
(2)付加価値カード(おまけカード)
(3)広告宣伝カード
それぞれ以下のような概要のカードであった。
(1)研究開発カード
研究開発費を投資することで、手に入れることができるカード。
「研究開発カードを持っている」=「品質の高い製品を作れる」
ということであり、価格競争の際に一定のアドバンテージが得られる。
たとえば、Aさんが「100円の研究開発カード」を
3枚持っていたとしよう。そして、価格競争で、
Aさん「8000円」
Bさん「7800円」
という金額提示があったとする。
通常なら、一番安い金額を提示したBさんの「勝ち」である。
しかし、「研究開発カード」を持っているAさんは、
「他社よりも300円分、品質の高い商品」を作ったわけだから、
「8000円−300円=7700円」
が真の商品価値となり、最も割安のAさんの商品が
「8000円」で売れるという結果となる。
(ようするに、市場のお客さんは、
「品質の悪い7800円のBさんの商品」よりも
「品質の高い8000円のAさんの商品」の方が『安い』と感じて、
Aさんの商品の方を選んだということである)
ここで最も重要なポイントは、「研究開発カード」は
「使っても無くならない」ということ。
だから、「研究開発費」を投資し、
「研究開発カード」を集めれば集めるほど、
どんどん価格競争が有利になっていく。
(2)付加価値カード(おまけカード)
効果は「研究開発カード」とまったく同じであり、
価格競争の際に一定のアドバンテージが得られるカードである。
ただし、「研究開発カード」との違いは、
「使うと無くなる」という点である。
たとえば、Aさんが価格競争の際に、
「100円の付加価値カードを3枚使います」と宣言し、
Aさん「8000円」
Bさん「7600円」
という金額提示があったとする。
Aさんは「付加価値カード」の分だけ提示金額が安く評価されるが、
それでもBさんの方が「もっと安い」ので、
結果として、Bさんの「勝ち」。
Aさんの商品は、1個も売れず倉庫に戻されるが、
それでも「付加価値カードは消費された」として無くなってしまう。
(たぶん「付加価値カード」は、「おまけ」「キャンペーン」
のようなものだと考えてもらえれば良いと思う。
ようするに、「いま、うちの商品を買うと
○○○円分のサービスが受けられますよー」
とか
「いま、買うと漏れなく『飲茶くん人形』がもらえますよー」
とかそういう話。
商品に「付加価値(おまけ)」をつけることで、
お客さんの購買意欲を高めて売りやすくする、ということである。
以後、直感的にイメージしやすいように「付加価値カード」は
「おまけカード」と呼称することにしよう)
(3)広告宣伝カード
このカードの説明は少々ややこしい。
そもそも、市場に商品を出すとき、
僕たちは巨大な日本地図の「特定の都市」の上に、
商品のコマを置くわけであるが、
通常は「ひとつの都市」にしか置くことができない。
たとえば、「東京」に商品を置いたら、
もう「札幌」や「青森」に商品を置くことはできない。
しかし、投資して手に入れた「広告宣伝カード」を
消費すれば、複数の都市に商品を置くことができる。
たとえば、Aさんが「広告宣伝カード」を3枚消費して、
・東京(需要50)
・札幌(需要8)
・青森(需要1)
の3都市にそれぞれ商品を置いたとする。
ここで、Aさんの独占販売を阻止するためには、3人以上の人が現れて、
3人が別々の都市に商品を置かなくてはならない。
ようするに、
Bさん→「東京」に競合商品を出す
Cさん→「札幌」に競合商品を出す
Dさん→「青森」に競合商品を出す
と言った具合だ。
そして、それぞれの都市でAさんと価格競争を行う。
つまりこのカードは、「広告宣伝費」を投資することで、
商品の全国展開をするというイメージであるが、
正直、ちょっと使い方が難しい。
まず、最初にパッと思いつく使い方は、
「広告宣伝カード」をたくさん集めて
全国の都市に商品を展開し、
競合相手のいない都市を作り出し、
そこで独占販売を狙う……といったところだと思うが、
参加者が十何人もいる状況では、そうそううまくはいかないだろう。
また、おそらく競合相手は、東京などの「需要が大きい都市」から
競合商品を置いていくだろうから、
上手いこと「競合相手のいない都市」を作り出せたとしても、
そこはどうしても「需要が小さい地方都市」になってしまい、
ほんの少しの商品しか売ることができない。
(たとえば青森の場合、需要1なので、最大でも1個しか売れない。
だから仮に独占販売に成功しても予想よりも「うまみ」は少ないのだ)
じゃあ、広告宣伝カードは何のためにあるのか。
たぶん……、価格競争の相手を分散させるのが目的なのだろう。
おそらく、これから年数が進めば、「研究開発カード」を大量に
集めて成功した「大企業」が現れる。
そんな大企業とまともに価格競争しても勝てない。
そこで、このカードで、複数の都市に商品を分散し、
「研究開発カード」をあまり持っていない相手との価格競争で
勝負をかける……と言ったところだろうか。
どちらにしろ、ちょっと使いどころが難しそうだ。
なにより「おまけ(付加価値)カード」と同じく
「使うと無くなる」系のカードだから、
使いどころを間違えると、無駄な投資になってしまうのがツラい。
とすると、やっぱりシンプルな「研究開発カード」「おまけカード」
を巡る戦いになりそうだ。
基本的には「研究開発カード」をたくさん集めるのがセオリーだろう。
なにせ消費されず、集めれば集めた分だけ価格競争で
アドバンテージが得られるというのはものすごく魅力的だ。
だが、その分、投資金額がべらぼうに高い。
一方、おまけカードの投資金額は安い。さくさく買える金額である。
だが、その分、使いどころを誤って無駄に消費すると、
ただドブにお金を捨てただけになってしまう。
たぶん、おそらくは……、
短期投資でギャンブル性の高い「おまけカード」を集めるのは罠であり、
長期投資でギャンブル性の低い「研究開発カード」を地道に集めていくのが、
正解なのだろう。それが講師の狙いのような気がする。
短期投資のギャンブルで失敗した経営者を諭し、
コツコツ地道に長期投資していくことの大切さを教えようとか、
どうせそんなところだろう。
だが悪いが、俺には長期投資は無理だ。
だって、こっちは材料買占め戦略で現金がなく、
ピーピーいっている状況なのだ。
どう考えても、「研究開発カード」を集めるなんて無理。
だから、まずは、コツコツと「おまけカード」を集めて、
ここぞというところで、
一気に使ってたくさんの商品を高値で売り抜け……、
そうして手に入れた大量の現金(キャッシュ)で、
「研究開発カード」を買って……、
とそんなふうに歯車を回していかなければならない。
そのためにも、まずは「おまけカード」!
これを少しずつ買い集めよう!
――と、こんなふうに僕は説明書を読みながら、ひとつひとつ情報を整理し、
午後からの戦いに備えていた……。
が、このとき、すでに「致命的なミス」を犯していることに
僕はまったく気がついていなかった……。
そう、僕はまたしても、「後」から気づくのであった……。
うれしい
私の時は一番最初に説明がありました。
「研究開発」「広告」「教育」でした。
人を雇って営業員の数だけ市場に商品を投入できる仕組みでした。
「広告」は営業力の強化になりました。
「研究開発」は価格競争力の強化。「教育」は社員の生産力と営業力を半分強化。
そう言えば人を雇うという設定が欠けているような。
初心者ルールでは投資した能力はすぐ使えて消えずに残りましたが、上級者ルールだと来期にならないと効果が出ず、使った期末に消滅してしまうものでした。
技術力で威張れるのは短期間。
液晶テレビの価格競争、国内主要メーカーの赤字のニュースはシビアな現実を思い知らせてくれます。セイの法則なんて。
あー、経済ガールズやりませんか?
ヴォルテールの言葉(たぶん)「マネーはそれを手に入れるよりも、それについて書くことの方がずっと容易である。故にマネーを手に入れた人たちはそれらについて書くことを知るだけの人を、大いにからかうのである 」『お金の歴史全書』より
……ええ、ちっとも手に入りませんとも。
ようやく待ちに待った連載が始まった。
早く書いてぇーーーとおもいます。
続きを早く読みたいです
哲学ガールズ四コマより先にこっちを終わらせないと!
経済学の入門書もいつか書いてみたいです\(^o^)/