2011年03月01日

哲学的な彼女企画選考結果発表(2)


哲学的な彼女企画選考結果発表(1)

■哲学女子企画の反省点
・規定枚数の100枚上限は不要だったかもしれない。
もともとは、
30枚の強烈なインパクトのある短編小説」と
300枚の壮大で重厚な長編小説」を同列に並べて
評価するのは難しい、
ということから、100枚という上限を設けた。

(なお、本企画は「30枚」くらいの短編が「20〜30作品」も
集まれば御の字と思っていたため、
「短編部門」「長編部門」というカテゴリ別に募集するという
考えは出てこなかった。

しかし予想に反して、枚数上限100枚に近い長編を含む
223もの作品が投稿されるという予想外の大成功となったわけだが、)

その結果として、
100枚ぴったりの作品」や
100枚を越えてしまったため、
 (選考対象外を条件に)2回にわけて投稿した作品

が多数できてしまった。

たとえば、大賞をとった「金椎響4作品」はすべて枚数上限
ギリギリの100枚の作品である。予想するに、枚数制限がなければ、
もっと自由に必要なエピソードを追加して、さらに完成度の高い
作品に仕上げられたかもしれない。(エピローグとして、
ヒロインの哲デレシーンが追加されたかもしれない!)

つまり、「大賞を取れるほどの質の高い作品であるのに、
実は、その作品の真の実力はまだ明かされていなかった

という話であり、100枚の上限が創作の障害になっていたとすれば
企画主催者として大変申し訳なく、深く反省している。

また、100枚を越えての投稿であるため選考対象外となってしまったが、
100枚という制限がなければ、大賞をとっていたかもしれない
作品もあった。

哲学的な彼氏企画 上巻」橙。
哲学的な彼氏企画 下巻」橙。

本作品は174枚という大作でありながら、
その軽快な掛け合いで、最後まで飽きさせずさくっと読めてしまう
優れた娯楽作品として成立しており、
「気軽によめるライトノベル的な作品」を選考基準の要素として
最も重視するなら、本作品と「僕と狂人」と
僕と彼女の哲学的おっぱい議論」が大賞になる可能性が高かった。

また、100枚になることを恐れて、泣く泣くエピソードを削って
70枚〜80枚にした作品もあるだろうから、
100枚という枠を取り払ったときの各作者の実力を見てみたいと思った。

■最終選考作品へのコメント
最終選考作品に対し、主催者からの感謝としてコメント。

・「哲学的な魔女、あとオレとか」金椎響
 ⇒「シャッターボタンを全押しにして」と
 どっちを大賞にするか迷った作品。
 主人公とヒロインともに、前作とは真逆のキャラでありながら
 非常に快活で魅力的でエンタメとして優れた作品であり、
 「その気になればこんなのも書けるんですよ」
 と才能を見せてつけてくれた。
 三作目「She said to me, “GODSPEED”.」
 は、正直あんまり面白くなかったが、
 四作目「死の季節」は、独特のダウナーな雰囲気で、
 「たいした事件も展開もないけど、登場人物をいつまでも眺めていたい」
 と思わせるような作品に仕上がっていました。

・「コギト」折伏ぬゐ
 ⇒ラストがとても良かったです。そして、
 そのラストに対応した深い意味のある出だしも良かったです。
 「ヒロインが病気で死んで終わり、それで感動」
 みたいな安易な作品が溢れるなかで、
 こんな最高のハッピーエンドの形があるんだと
 世の中に知らしめたい作品でした。

・「先輩と、真実の口」牛髑髏タウン
 ⇒序盤のツカミが上手すぎ。洗練された構成と
 ラスト方面の盛り上がりが素晴らしくて、
 長いことこの作品が大賞になると思ってました。

・「哲学の道で少女は思考する故に少女あり」エキセントリクウ
 ⇒笑いました!劇中小説がとても良かったです。
 あんなもの書いておきながら、あの場面で「おれの次回作が読めなくなるぞ!」
 と叫ぶ主人公が衝撃的でした。
 そんなことを叫ぶことのできる人間がいるというだけで、
 「この世界で生きていてもいいんじゃないか」と思えました。

・「けんまほ」ルト
 ⇒ファンタジーで挑戦した心意気に惚れました。
 ああかわいい、かわいいよ、シンリ。

・「虚無の奏でる音楽」野々宮真司
 ⇒この作品の凄さ、僕(飲茶)はきちんとわかってるからね、
 とこっそり著者に言ってあげたい作品。

・「僕と彼女の哲学的おっぱい議論」7GO
 ⇒展開が秀逸。素直に面白かったと負けを
 認めざるを得ない作品でした。

・「祈り屋と衒学者」svaahaa
 ⇒石動君と二宮さんをもっとみてみたいです。
 いっそ、この流れで「サルトルの嘔吐」を萌えラノベとして、
 再構成して書き換えてしまえばどうだろうとか、
 考えてしまいました。タイトルは「吐きたい背中」で。

・「僕と狂人」やみくろ
 ⇒哲学女子の王道を抑えつつ、
 「起承転結」「どんでん返し」「特殊能力」という
 ラノベの王道がきちんと表現されており、作品として
 完成されていました。飲茶は高く評価します。
 ラストの目録は、にやり、でした。

(続く)

2011年03月03日

哲学的な彼女企画選考結果発表(3)


哲学的な彼女企画選考結果発表(1)
哲学的な彼女企画選考結果発表(2)

■アイデア評価
今回の企画は、予想外に実力者ぞろいになってしまったため、
たとえば、「普段小説書いたことないけど、
ぱっと哲学女子のアイデアを思いついて、
さくっとワンシーンだけ書いてみました〜
」という作品だと、
思った以上に「読者評価が低い」というさんさんたる結果になりがちです。

しかし、文章力や小説としての出来栄えは度外視して、
表現しようと思った、その発想自体」が評価されても
良いのではないでしょうか。

というわけで、以下は若干ネタバレになりますが、各作品で
主催(飲茶)がアイデアとして特に面白いと思ったものを
紹介していきたいと思います。

・「『ぽん』と君は言う」久谷
 ⇒
「じゃんけんで、あたしが勝ったら、お風呂沸かして」

日常の他愛のないことをいつも「じゃんけん」で
決めてきた「僕と彼女」。
「僕」は決まってグーを出し、「彼女」は決まってパーを出す。
それで「僕と彼女」は丸く収まってきた。
しかし……。

じゃんけんで、あたしが勝ったら、別れて

さぁ、どうする? 普通に考えれば「僕」は別れたくないから、
チョキを出せばいい。いや、だが、相手だって、
いつもの習慣を知っているのだ。だとしたら……、
「彼女が本当に僕と別れたいと思っているケース」
「彼女が別れたくないが、ただ僕の気持ちを試しているケース」
といった考えられるあらゆる状況を想定し、
それぞれのケースで彼女が何を出すかを推測したうえで
どのケースにおいても、「最悪でも負けない」ような
引き分けを狙う「手」を考えるとしたら……

いくわよ! じゃんけん!

――じゃんけんひとつで、ここまで思索的に盛り上げられるものか、
と「じゃんけんの可能性」を提示する画期的な作品でした。

・「超人少女えたぁなる・ニーチェ」皆本暁
 ⇒
 哲学女子たちの異能バトル。
 -------------------------------------
 ホッブズ「行っちゃえ! リヴァイアサン!
  リヴァイアサンは誰にも負けない!
  強いとか弱いの話じゃないよ、そーゆー風にできてるんだから!


 恐怖による絶対支配の象徴、リヴァイアサン。
 ホッブズがそう定義した以上、この大蛇を殺すことは原理的に不可能。
 それでも、ニーチェは蛇に向けて一歩踏み出した。

何で逃げないの!? この子を見たら、絶対怖くなるはずなのに!

私が何より怖いのは、諦めてしまうことよ!
 私が諦めない限り、『力への意志』は必ず私を勝利へと導く!
 ツァラトゥストラ!

 -------------------------------------

という感じで燃え燃えで進んでいきます。
単に、特殊能力で相手を倒すだけではなく、
きちんとニーチェの哲学で相手の哲学を打ち負かして勝つのが、
この作品の凄いところ。

それが、あなたのルサンチマン

という哲学少女ニーチェの決め台詞は、最高。
案外、一番商業向きの作品かもしれない。

・「チャーハン大盛り、あ、ご飯抜きで 」svaahaa
 ⇒
 「チャーハン大盛り、あ、ご飯抜きで
 と定食屋で女の子がいったところから始まる
 「チャーハンとは何か」という哲学議論。

 「およそどーでもいいこと」にこだわり
 延々と議論をふっかけてくる女の子と、
 そしてそれに振り回される僕、という構図。
 哲学女子小説には「こういう王道(方向性)がある」というのを
 指し示す作品でした。

・「おやつは300円以内、バナナは入るか、からの論
おっぱいはAカップ
 ⇒これもさっきと同じ王道パターン。
 「バナナはおやつに入るのか?」という日常のよくあるネタに対して、
 「バナナとは何か?」と真面目に議論しようする哲学女子と僕の物語。

 -------------------------------------
「バナナチップスがバナナであるとしてしまった上で、
 バナナはおやつではないとしたら、
 バナナであるバナナチップスもその中に入るわけで、
 すなわちバナナチップスもおやつではないとなるわけだから」

「すまん、さっぱりわからん、バナナ言いすぎだぞお前」
 -------------------------------------
 
これらの作品によって 
『こだわり型』というカテゴリの哲学女子が具現化されました。

・「チョコレートがあります」フクミハルカ
 ⇒
 「ここに、チョコレートがあります」
 「そこに、チョコレートがあります」
 という会話の繰り返しがとてもいいです。
 この雰囲気で、チョコレートを使って
 現象学的に存在論を展開してほしいと思いました。

・「未来のカタチ」じょにぃA
 ⇒ボスを倒さないと世界の未来はない。
 でも、ボスを倒してしまうと記憶が消えて、
 (自分が予定していた)未来がなくなる。

 「このボタンを押せば、ボスが倒せる」という瀬戸際で、
 未来について、アンビバレンツ(あちらを立てればこちらが立たず)
 を突きつけられる正義の味方の物語。

 「哲学」が題材ってことで、
 こういう星新一的な、非日常を舞台にした
 皮肉っぽいショートショート(二律背反に追い込まれる物語)が
 たくさん投稿されるだろうと思っていましたが、
 実際には意外に少なかったので、貴重な作品でした。

・「はかない少女」ジョージ高津
 ⇒
 「あえてパンツをはかない」。ただそれだけのことによって、
 いつもの退屈な日常が、危険で新鮮な非日常に変わる、
 と主張する女の子。
 ゲームでもそうだけど、「縛りプレイ」ってなぜあんなに
 楽しいのでしょうか。
 人生に「縛り」を加えることで生み出される『何か』
 というテーマに焦点を合わせて考えてみたくなりました。

・「TTGK48」クロードニュウスキー
 ⇒TTGK48(てつがく48)というアイドルユニットの
 オーディションの話。「哲学者になりきって演じる」という
 お題に対して、
 「孔子になりきってください」⇒「はい、子牛ですね
 「墨子になりきってください」⇒「ええ、牧師ね
 と間違った解釈をしてしまう彼女たち。
 僕はツボにはまって面白かったです。
 できれば、彼女たちの頓珍漢な演技を
 審査員が勝手に「うおお!なんて哲学的なんだ!」と
 評価してしまう、というアンジャッシュ的展開だったら
 もっと自分好みでした。(笑)

・「ツムグ。」Chia
 ⇒舞台は合コン。せっかく下らない話でみんな盛り上がっているのに、
 真面目な返答をして場を白けさせる哲学女子、という物語。

 「空気が読めず、他人から煙たがられている哲学女子」に対して、
 「僕」だけが「彼女の魅力」に気づいているという関係性が重要。
 そして、「僕」から積極的に哲学女子にアプローチすることで、
 「え?そ、そんなこと言われたのはじめて」的に哲学女子を
 ドギマギさせて、デレさせていく、というラブコメ展開がGOOD!

 これも哲学女子小説の王道(方向性)になりえると思います。

・「一刀両断」まがるストロー
 ⇒
 現実主義で、何でも「一刀両断」してしまう女の子という設定。
 その新規性のある設定でもう少し書いてみてほしかったです。
 恋愛とか「一刀両断」できない問題に立ち向かうとか。
 最後に道元禅師の「一刀一断」に目覚めるとか。

■作品分析
全作品について、登場する哲学女子のカテゴリ分けを行い、
どんなタイプの哲学女子が多かったか、を調べて傾向を分析し、
次の世代のための何かを残そう……
と思って、途中までやって表にまとめていたのですが、
すみません、予想以上の投稿数で最後までできませんでした。(^^;

とりあえず、途中までやったカテゴリ分け。

@天然型:
 あまり哲学に詳しくはないが、ふとしたときに周りがはっとするようなことを
言ってしまう天然型の女の子。
 「子供こそが最高の哲学者である」という言葉を体言したタイプ。
(例)
・「日常と勉強と少々の哲学」島中栄一郎
・「哲学的な彼氏企画」橙。

 -------------------------------------
「わたしにとっての事実は絶対に事実だし、
まわりがどう言おうとそれはわたしの事実を、わたしの世界を
変えられるものじゃないんだよ。
『しゅかん』に勝てる『きゃっかん』なんてないんじゃないかな?」
 -------------------------------------

A屁理屈型:
自分の目的(欲望)の遂行のためなら、屁理屈も辞さない。
無理やりな議論をふっかけて、主人公を振り回すタイプ。
(例)
・「駄目だっ。コイツなんとかしないとっ!」ダイちゃん

テンション高く、色んな哲学理論やうんちくを降りまわして、
自分の意を押し通そうとする我ままキャラクターは、
うまくはまるとそれだけで面白い作品になりそうです。
少しタイプは違うが、屁理屈型としては、以下が秀逸。
・「クリスマスの過ごし方 by 土屋的な彼女

Bこだわり型:
およそどーでもいいことに、こだわってしまうタイプの女の子。
(例)
・「チャーハン大盛り、あ、ご飯抜きで 」svaahaa

C迂遠(回りくどい)型:
なんか小難しいことを言ってくると思ったら、
実は単に「好きだと言いたかっただけ」
または「好きだと言ってほしかっただけ」だった……
という女の子。
回りくどいが、そこが「萌え」ポイント。
(例)
・「俺と彼女の明確な温度差」維川 千四号

D孤高型:
思索的で内向的で、常に「哲学的な何か」を求めて考え込んだり、
本を読んでいるタイプの女の子。
たいていの場合、友達が少なく、理解者も少なく、
近づきがたい雰囲気を持っている。
しかし、その「近づきがたさ」を乗り越えたとき、
「哲デレ」状態があらわれる。

ちなみに、大賞作品「シャッターボタンを全押しにして」は、
孤高型であると思われる。

(続く)

2011年03月05日

哲学的な彼女企画選考結果発表(完)


哲学的な彼女企画選考結果発表(1)
哲学的な彼女企画選考結果発表(2)
哲学的な彼女企画選考結果発表(3)

■出版社様へ

もし、投稿作品の中で将来有望な作家さんがいましたら、
ぜひとも、連絡をとってあげてください。


投稿作品ページ(平均点順)

連絡先がわからないときは、こちらからご連絡ください。
(作品投稿時のメールアドレスをもとに、連絡をとってみます)

なお、企画主催(私)は、あくまで双方に連絡先を教えるだけであり、
連絡がとれたあとは、企画主催(私)は無視してかまいません。

(出版社様と作者の間に、立ち入りませんのでご安心ください。
 もちろん、私で、お力になれることがあれば、ご協力いたします)

■企画終了後の投稿室について

企画ページおよび企画投稿室は、
企画終了後も、そのまま残しておきます。

新規投稿はできませんが、感想は受け付けていますので、 
今までどおりご利用ください。
 
なお、著者と読者の「交流用の掲示板」として使っても良いです。
ただし、その場合は平均点が下がらないように「評価なし」で投稿してください。
(最悪、間違っても、私の方で、消せるので大丈夫です)

■第2回企画開催の予定

第2回目の企画開催については今のところ未定ですが、
またいつか開催できたら良いなと考えています。

なお、もし次回やるとしたら、「哲学女子小説」を
市場向けの商業作品として成立させる
にはどうすれば良いか、
もしくは、
『あ、これ書籍化の企画会議で通りそうだ』
と出版社の人に思わせる

にはどうすれば良いか、
を事前にもっと議論して、
ある程度、企画の方向性を絞ってからやりたいと考えています。

ご要望等があれば、ブログコメントもしくは論コミ等で
ご連絡ください。

■謝辞

「20〜30作品ぐらいの投稿数かなぁ」と思って始めた企画でしたが、
ふたを開けてみれば、223作品もの投稿があつまり、
一時は投稿用CGIが上限を越えてトラブルが発生してしまうほどの
大盛り上がりとなりました。

作品やアイデアの質も高く、選考はとても楽しかったです。
主催として、「本企画は大成功だった」と自信を持って言えます!

参加者ならびに関係者、協力者のみなさま、
本当にありがとうございました!

■最後に

つい先日のことですが、当企画の実現に多大なるご尽力を頂いた
うっぴーさんが運営している「ライトノベル作法研究所」から、
またもやライトノベルで新人賞を受賞しプロデビューする方が出ました。

聞くところによると、処女作/初公募での受賞とのことです。

ウソみたいな成功例に思えるかもしれません。
しかし、ジャン=ジャック・ルソーのように、他人から見たら
気まぐれで突然はじめたようにみえる執筆、創作活動であっても、
それが人生や世界を一変させてしまうという奇跡は
「誰にでも起こりえる」ということなのだと思います。

また、ニーチェは、「労働」「モラル」「神」といった
既存の「価値」は次第に崩壊して「何の情熱も目的も持たず、
ただ暇を持て余して生きる時代
」がやってくるだろうと予言し、
だから旧時代の価値にかわる新しい価値、新しい生き方を見つけよう
と哲学をしたわけですが、
私は、その新しい価値、新しい生き方とは、
学問と創作をしながら楽しく生きること」ではないか、
そして、
次の新しい時代を作り上げるのはみなさんのような「創作者」なのではないか、
そう考えています。

さて、本企画はこれでお終いですが、次の機会がありましたら、
ぜひまた、みなさんの熱い創作に触れさせてください!
ご参加ありがとうございました!

以上を持ちまして、
「第一回 哲学的な彼女企画」を終了と致します!!