今までにない哲学入門書を書くにはどうしたらいいのか?
他のアイデアとして、
「ラノベ風に哲学入門書を書いてみる」
というのもありました。
ラノベ風といえば、やはり「可愛いい女の子」でしょう。
すなわち萌えキャラ。その萌えキャラが、
「主人公(読者の分身である、普通の男の子)」とラブラブしながら
哲学を語るとかそういうお話を書いたらどうだろうか
と考えたのです。たとえば、こんな感じ。
「零音(れいん)、さっきの映画、
<私>の頭の中の消しゴムどうだった?」
「うん、とても面白かったわ……哲学的で」
「え、哲学的?」
「時間とともに記憶が薄れていくヒロイン。
記憶がなくなれば、恋人を恋人と認識できなくなるという物語。
まさに同一性の問題をテーマにした哲学映画なわけなのよね」
「い、いや、たぶん恋愛映画だと思うけど……」
「まずそもそも、なぜ『昨日の他人』と『今日の他人』を
『同じ人間』として認識できるのかしら?
当然、『記憶』が作用しているからだけども、
その『同一である』という確信は、何に由来するものなのかしら?
たとえば仮に、科学技術が進んで、
私とまったく同じ分子配置を持つ人間を作り出せたとして、
その二人を並べてみたとき、きっとあなたは『二人とも同じ零音だよ』
とは言わないわよね。
『一方が本物(オリジナル)で、一方はコピー品だよ』と言うと思う。
でも、物理的には、両者とも、あなたの『記憶』と
完全に一致する『零音』なのよ。じゃあ、今度は、私の脳を取り出して、
脳だけを別の身体に移植した場合を考えてみたとして
(中略)
でも、零音という『人格』が『零音』だと見なす根拠であると言うなら、
もしコンピュータ上で『零音』の人格を再現できたら、
あなたはそれを『同じ零音』として見なさなければならなくなる。
そうすると、今度は
(中略)
これはちょっと笑ってしまう話なんだけど
(中略)
いや、まずその前に、そもそも『私』は『私自身』を
どうやって『同一』の人間であると認識しているのかしら?」
「……え、えっと、あの〜」
僕と零音。ごく普通の高校生である僕たちは、ごく普通に恋をし、
ごく普通に恋人同士になりました。
でも、ただひとつ、普通と違っていたことが……。
そう、彼女は哲学者だったのです!』
『哲学的な彼女』
エピソード1 〜彼女は哲学者〜
彼女の名前は、黒柳零音(くろやなぎ れいん)。
独我論研究会の会長。チャームポイントは、目の下のくま。
哲学に精通する彼女は、学園の一部の連中から熱烈に慕われ、
よく相談を受ける。
そして、僕たちはさまざまな不思議な事件に巻き込まれるのだ。
「あの子が持っていた黒いノート。
その表紙のタイトルには、こう書かれていたわ。
『クオリアデスノート』」
「クオリア……デスノート? な、なにそれ?」
「そのタイトルから察するに……、そのノートに
名前を書かれた人間は、クオリアが消失し、精神的に死亡する。
すなわち哲学的ゾンビになるということよ」
「哲学的ゾンビ? えっと、何を言っているのかさっぱり」
「いけない、早くそのノートを使うのをやめさせなければ」
―――――――――――――――――――――――
「ソシュールデスノート。なるほど、謎が解けたわ。
いつの間にかこの世から、『ちょべりば』という『言語』が
消え失せたのは、このノートの力だったのね」
「死語を作り出すノートってこと?じゃあ、そんなに害はないよね」
「違う! 『言語とは差異の体系である』
というソシュールの哲学に従うなら、
このノート……使い方次第では『宇宙』が崩壊する!
ちなみにソシュールの哲学については、
飲茶著『史上最強の哲学入門』の第四章がとてもわかり易いわ」
――――――――――――――――――――――
「無理だ、僕に世界が救えるわけないだろ!」
「信じて……<あなた>の中にある『何か』を……」
「『何か』ってなんだよ!」
「……哲学的な何か……(がく)」
「零音〜〜!」
――――――――――――――――――――――
な〜んて感じで考えたのだけども、元の依頼から
かけ離れすぎているので、さすがにまずいからボツに
え? また話が進んでない?
口を慎みたまえ!嘘は言っていません!
数瞬の妄想を詳しく語って(略
ゴホン。ともかく、色々な試行錯誤をしていたさなか、
編集部よりとんでもない連絡が入ったのです。
「板垣先生とアポが取れました!
飲茶さんと会って話しがしたいそうです!」
(続く)