2009年09月04日

経営者育成セミナー参加日記(13)〜価格破壊〜


え?ちょっと待って、みんな、なにやってるんだよ!?

市場では、信じられない異様な事態が起きていた……。


そもそも、この経営戦略ゲームで利益を上げる方法とは何か?
それは、いたって単純な話。

「材料」を買い、「商品」に加工し、「市場」で売る。

たったこれだけのことである。

だが、実際には、そう簡単に事は進まない。
なぜなら、競争相手がいるからだ。

たとえば、自分のターンのときに、「商品を売ります」と宣言したとする。
すると、僕は自分の商品を
テーブルの中央にある「市場(巨大な日本地図)」の上に置いて
売りに出すことができる。

もし、ここで市場に置かれる商品が、
自分のものだけならば僕の独占販売となり、
僕は好きな値段をつけて大儲けすることができるのだが、
実際にはそんなことは起こりえない。

なぜなら、講師がみんなにこう問いかけるからだ。

競合商品を出すひとはいませんか?

もちろん、その言葉にそうはさせじと他の経営者が、
次々と名乗りをあげ、競合商品を市場に投入してくる。

こうして、「日本地図(市場)」の上には
大量の商品の山が置かれることになるわけだが……、
当然、それらの商品がすべて売れる、ということはない。

市場には「需要」というものがあり、売れる商品の数は限られているからだ。

そして、ここでの最大の問題は、その「需要」に比べて、
市場に置かれている商品の数が非常に多い、
ということである。

つまり

需要 < 供給

という状態。

ようは、需要として10万個しか売れない市場に、
100万個以上の商品が供給されている状態なのである。

こうなると、当然のごとく始まるのが……価格競争

参加者全員が、同じ商品を作り、
参加者全員が、同じ商品を市場に売り出しているのだから、
当然、安い値段のものから売れていき、
高い値段のものは売れ残り在庫となる。

当たり前の市場のルール。
別に何も不思議はないだろう。

だが、その当たり前の、単純な市場のルールが、
驚くべき事態を引き起こす。

たとえば、今回、みんなが作っている商品が携帯電話だったとしよう。
それを1個作るのに、5000円掛かったとする。

そして、それを市場で8000円で売ったとしよう。
原価5000円のものを、8000円で売るのだから、
1個売れるたびに、3000円の儲けが出ることになる。

だが、自分も含めて、他の経営者みんなが同じ条件なのだ……
するとどうなるだろうか……。

講師「では、オープンプライス

市場では講師のかけ声を合図に、みんなが、商品の値札を開示する。

A「8000円」
B「8000円」
C「7900円」

講師「はい、Cさんの商品が売れました

こんなふうに、一番安い値段をつけたCさんの商品が、
優先的に売られることになるのだ。

さてここで、Cさんは儲けることができたわけだが、
8000円を提示したAさんとBさんは売れなかったので、
商品は在庫として、倉庫に戻されることになる。
もちろん、Cさん以外は、一銭も儲からない。
Cさんの一人勝ちだ。

しかし当然、みんなだって、Cさんのように儲けたいわけだから、
次の競売のときには、みんなも価格を下げて、
7900円の値段を提示するようになる。

だが、それも長くは続かない。しばらくすれば……。

講師「では、オープンプライス」

A「7800円」
B「7900円」
C「7900円」

講師「はい、Aさんの商品が売れました」

という形で、徐々に値段が下がっていく。

他の人より、値段を下げなければ売れない。
売れなければ儲からない。
儲けるためには、他の人より安い値段を
つけなければならない。

そんな意識が、低価格化に拍車をかけていく。

A「さっき、7800円で売れたよな。
 じゃあ、次は、7700円で売りに出そうか。
 いや、それはみんなやるから、裏をかいて、7600円か?
 いや、いっそ、7500円で出すか


講師「では、オープンプライス」

A「7500円」
B「7400円」
C「7200円」

講師「はい、Cさんの商品が売れました」

A「うおおーー!そうきたかーw」
B「いやぁ、そろそろ、7500くると思ってたんだけどなあw」
C「あはははは、みんなわるいねえww」

こうして、いつしか市場の競売は、
相手が下げてくるであろう値段を推測して、
さらにそれより値段を下げる
」というゲームに変わっていく……。

ちなみに、これはやってみるとかなり楽しいし、意外に燃えるゲームである。
自分の予想通りの金額を相手が出して、
そのぎりぎりで勝ったときの喜びは格別なものである。

だが……。

講師「では、オープンプライス」

A「5100円」
B「5200円」
C「5100円」

講師「はい、5100円が最低価格です。AさんとCさんは同価格ですが、
 Aさんが親(売りますと宣言した人)なので、Aさんの商品が売れました」

結局、その価格競争がたどり着く先にあるもの。
それはどうしようもないほどの薄利!!
っていうか、原価5000円ぎりぎりの値段設定なんて、
借金の利息も含めたら、完全に赤字である!

それでもみんなは、設備投資した工場をフル回転。
次から次へと、商品を大量に生み出し、
市場に流し込んでいく。

もちろん……、それらを売ったところで、
こんな薄利ではまったく儲けにならない!
ただ借金の金利がかさむだけという不毛な状態である!

だが、これだけではない!ついに、決定的なことが起こる!

講師「では、オープンプライス」

A「5100円」
B「5200円」
C「5100円」
D「4500円」

A&B&C「えええええ!4500円!?」

ついにきた原価割れ
市場崩壊の引き金であった。

2009年09月17日

経営者育成セミナー参加日記(14)〜今〜


講師「では、オープンプライス」

A「5100円」
B「5200円」
C「5100円」
D「4500円」

A&B&C「えええええ!4500円!?


ついにきた原価割れ
原価5000円の商品を4500円で売った男が登場!
僕は、今でもこのDさんの顔を……忘れることができない。
彼のことは、以後「価格破壊男」と呼ぼう。

基本的にこのセミナーの参加者たちは、
みなそれなりの年齢で、おそらく、 それなりの会社の重役たちである。
だが、この「破壊価格男」は、
年齢も若く服装も言葉づかいも幼く、
(まるで僕のように)浮いた存在で、
そのなんというか、ほっぺに渦巻きが書いてあって、
「キャハ」と笑うのが似合いそうな、 そんな感じのキャラクターの人だった。

その価格破格男が、 次々と商品の在庫を市場に投入しては、
容赦なく原価割れの値段で商品を売っていく!

そして、それをきっかけに驚くべき事態が……。

講師「では、オープンプライス」

A「4600円!」
B「4400円!」
C「4800円!」
D「4500円!」

なんと市場の相場が価格破壊男に引っ張られたのだ!

とうとう原価割れの価格競争に突入!
ありえない! 通常ならありえない暴挙!
原価割れで商品を売っても、何にもならないどころか、
売れば売るほど、損をするだけなのに!

もしかしたら、この話を聞いてあなた(日記の読者)は、
「参加者全員、バカなんじゃないの(笑)」
と疑うかもしれない。

いや……そんなことはない。
間違いなく集まった人間は、
それぞれがそれなりに優秀な人物……。
会社でいうところの課長、部長以上のクラス……。
決して、計算できない人間ではないし、
バカな人間たちではない。

だが、なんというのだろう……。そのとき、
このゲームを体験した人にしかわからない、
異様な空気が場を支配していたのだ。
その正体はおそらく、
年末になったら、莫大な借金の利息を支払わなければならない
というプレッシャー。
それが、少しでもキャッシュ(現金)を
手元に残しておきたいという強い焦りを
生み出していたのだと思う。

だって、もし年末の時点で、借金の利息が払えなかったら……、
強制的に借金追加。
さらに高い利息を支払うことになってしまうのだ。
だから、年末の決算のときに、
現金がマイナスになるのは非常にまずい!!


そういう心理が働いたのか、どの経営者も年末が近づくにつれ、
手持ちのキャッシュを一時的にでも増やそうと、
原価割れの値段でもいいから在庫を売る……、
という本来ならあり得ない流れが生まれていたのである。

もっとも、原価割れの値段をつけることに、
みんな最初は抵抗感があっただろう。
「いくらなんでも原価割れはさすがに……」という話だ。
だが、そこへ価格破壊男があっさりと
原価割れの値段を提示してしまった。
その結果、心理的抵抗は決壊!
キャッシュを求めて我先に原価割れで
在庫を処分しようとする経営者が続出するという
異常事態が発生したのである。

そして、決算……。

当然、みんな赤字!
経営ゲーム、参加者全員が
赤字になるという体たらく!

そして、重苦しい空気の中、次の年がはじまる。

もちろん状況はまったく変わらない。

だって前年度の低価格が、みんなの記憶に強く残っているのだ。
どうして、7000円や6000円の価格がつけられるだろう。
前年の価格競争を引きずるように、
原価ぎりぎりの金額からスタート。
材料を仕入れ、商品に加工しても、商品はなかなか売れず、
売れても薄利でまったく儲からない……。
そして、お決まりのパターンのように、
年末には、バタバタと原価割れの価格競争……。

結局、どうしたって、儲からない。
経営者の誰もが、行き詰まりを感じていた。

だけど、もしかしたら……、これは何の予備知識も持たず、
はじめてこのゲームをやったときに
必ず起こる定番の展開なのかもしれない。
だって、講師は、あいかわらず、
ニコニコしていたから……。

さぁ、ここで、はっきりと結論を言ってしまおう。

この価格破壊時期に、
商品を売っていた人が「負け組み」であり、
何もしなかった人が「勝ち組」である。

「負け組み」の経営者たちは、
価格競争の雰囲気に飲み込まれ、
とにかく自分の商品を売ることだけに熱中し、
積極的に材料を仕入れて商品を作っては
それを売ってなんとかお金を稼ごうとがんばっていた。
もちろん、価格競争が厳しくて商品はなかなか売れない。
結局、彼らは年度末が近づくと、手持ちの現金を増やすため、
あわてて原価割れで商品を売るはめになる。

一方……。何もしなかった側……、
「勝ち組み」の経営者は、
そんなバカげた価格競争を
冷静に観察しているように見えた。

もちろん、彼ら「勝ち組み」も商品を売りに出すのだが、
それは、あくまでも 独占を阻止するためだけに出しているだけで、
決して原価割れで商品を売ったりなんかはしなかった。
いや、彼らも、ときどき原価割れの安い価格を 提示することはある。
だが、それはなんというか、本気で売ろうとしていない、
そんな感じなのだ。
むしろ、相手が出すであろう金額を予想し、
売れないように相手よりその少し高い金額を提示する
といった感じ。
つまり、はなから原価割れで商品を売るつもりはなく、
安い金額をつける競争相手を演じているだけ。
すなわち「相手に商品を安く売らせる」ための競売参加……。

うぅうううぅ……。

僕は、幸運にもそのとき、
この価格競争に参加していなかった。
だから冷静に状況を把握することができた。
こうして、はたからみればよくわかる。

勝ち組の連中は、最初から相手に負ける値段をつけて
「あー、負けちゃった」
とわざとらしい残念そうな笑顔を浮かべ、
その一方で負け組の人たちは……、
売っても損するだけなのに……、
安い値段で売らされているだけなのに……、
それに気づくこともなく、
やったやった!と喜んでいるのである。

ぐぐぅぅうううううぅぅうううぅっぅうぅぅ!

な、なんだろう。この、気持ちは!
胸にこみあげてくる感情は!

本来なら、勝ち組の人たちの行動を
模範として見習うべきなのに……、
なぜだろう「裏表のない無邪気な負け組の人たち」の方に
強い親近感を持ってしまう。
この感情はいったい何なのだろう?

ともかく。

ここにきて、はっきりしたことは、
参加者同士の中で「経営者としての格付け」が
完全に決まったということである。

「バカな経営者」と「バカじゃない経営者」。
「目の前の現金獲得に必死な経営者」と
「長期的な損得を勘定できる経営者」。
「この状況をなんとか打破しようと、今までどおり
一生懸命、商品を売って儲けようとする経営者」と、
「そういった人を冷たく侮蔑の視線で眺めながら、
『自分の損失を抑え、相手に損をさせる』という戦略に
すばやく思考をシフトさせた経営者」。

経営戦略ゲームの参加者は、この2種類に
真っ二つに分かれたのである。

では、もし、自分が普通にゲームに参加していたら……
果たしてどっち側になっていただろうか。

もちろん、こうやってこの「日記」のように
過去」として冷静に振り返えるなら、
負け組の行動なんて絶対あり得ない
自分ならそんなことはしない
そいつらはよっぽど馬鹿なんじゃないのか
と僕だって誰だって簡単に言うことができる。
でもだ。株式投資しかり。パチンコしかり。麻雀しかり。
冷静に判断できるのは、いつも「損した後」ではないか。
いや、ギャンブルなどの話だけではない。
人生全般がそうではないだろうか?

たとえば、初対面の人たちがたくさん集まる場での自己紹介。
たとえば、人生の進路を決める大事な面接での受け答え。
たとえば、取引先の偉い人への報告やプレゼン。

たいてい、人間は、
そういう緊張やプレッシャーの中で行動するとき、
冷静でクレバーな判断を「リアルタイム」にすることは
そうそうできない。
実際、こういった状況において、人は、
うぅ、なんであのとき、あんなこと言ったんだろう」と
」から考えれば、「絶対しない」ような言動を
してしまいがちではないだろうか。

だから、「過去」という視点で、
自分ならそんな間違い、絶対にしないよ」といったところで、
意味はないのである。

きっと、おそらく「負け組み」の経営者たちも、
本来は優秀な人たちであるだろうから、
そのうち自分の過ちに気づくに違いない。
それは、1時間後かもしれないし、30分後かもしれない。
でも、それじゃあダメ!
「後」から気づくのではダメなのだ!
「今」!
「今」、気づかなければダメなのだ!

その意味では、僕は、負け組の方……。
緊張やプレッシャーに弱く、すぐにカーッとなって、
目先のことに夢中になり、
」で考えたら「なんで?」と思うような行動をとって
失敗をしたり、損をしたりして、自己嫌悪に陥るタイプ。

「今」に気づけないタイプ。

勝ち組の経営者になる条件が
「今」に気づける人間であるというのだとしたら……、
だめだ……まったく自信がない……。
どちらかといえば、
勝ち組の連中の嘲笑にも気づかず、
無我夢中で損をし続けるタイプ……。

あぐぅぅうううううぅぅぅ!(ボロボロ)
そんな自分に
はたして経営者になる資格などあるのだろうか!

そんなふうに悩んでる間にも、何年かの時が過ぎ……、
負け組の経営者たちが、無駄に商品を売って損失を出し続け、
取り返しのつかないほど、体力を失ってきたころ……。

講師が動いた。

くくくくくくくく。
 そろそろ、気づくものと、
 気づかぬものに分かれたようですね


僕は、その講師の冷たい言葉と
それを聞いて「にやり」と笑った 「気づいている側」の経営者たちの
冷たい表情に背筋が凍りついた。

一方の気づかぬ経営者たちは、まだわかっていないらしく、
頭に「?」をつけたまま、ぽかんとしていた。

そして、再び、講師の授業が始まった……。