「え?ちょっと待って、みんな、なにやってるんだよ!?」
市場では、信じられない異様な事態が起きていた……。
そもそも、この経営戦略ゲームで利益を上げる方法とは何か?
それは、いたって単純な話。
「材料」を買い、「商品」に加工し、「市場」で売る。
たったこれだけのことである。
だが、実際には、そう簡単に事は進まない。
なぜなら、競争相手がいるからだ。
たとえば、自分のターンのときに、「商品を売ります」と宣言したとする。
すると、僕は自分の商品を
テーブルの中央にある「市場(巨大な日本地図)」の上に置いて
売りに出すことができる。
もし、ここで市場に置かれる商品が、
自分のものだけならば僕の独占販売となり、
僕は好きな値段をつけて大儲けすることができるのだが、
実際にはそんなことは起こりえない。
なぜなら、講師がみんなにこう問いかけるからだ。
「競合商品を出すひとはいませんか?」
もちろん、その言葉にそうはさせじと他の経営者が、
次々と名乗りをあげ、競合商品を市場に投入してくる。
こうして、「日本地図(市場)」の上には
大量の商品の山が置かれることになるわけだが……、
当然、それらの商品がすべて売れる、ということはない。
市場には「需要」というものがあり、売れる商品の数は限られているからだ。
そして、ここでの最大の問題は、その「需要」に比べて、
市場に置かれている商品の数が非常に多い、
ということである。
つまり
「需要 < 供給」
という状態。
ようは、需要として10万個しか売れない市場に、
100万個以上の商品が供給されている状態なのである。
こうなると、当然のごとく始まるのが……価格競争。
参加者全員が、同じ商品を作り、
参加者全員が、同じ商品を市場に売り出しているのだから、
当然、安い値段のものから売れていき、
高い値段のものは売れ残り在庫となる。
当たり前の市場のルール。
別に何も不思議はないだろう。
だが、その当たり前の、単純な市場のルールが、
驚くべき事態を引き起こす。
たとえば、今回、みんなが作っている商品が携帯電話だったとしよう。
それを1個作るのに、5000円掛かったとする。
そして、それを市場で8000円で売ったとしよう。
原価5000円のものを、8000円で売るのだから、
1個売れるたびに、3000円の儲けが出ることになる。
だが、自分も含めて、他の経営者みんなが同じ条件なのだ……
するとどうなるだろうか……。
講師「では、オープンプライス」
市場では講師のかけ声を合図に、みんなが、商品の値札を開示する。
A「8000円」
B「8000円」
C「7900円」
講師「はい、Cさんの商品が売れました」
こんなふうに、一番安い値段をつけたCさんの商品が、
優先的に売られることになるのだ。
さてここで、Cさんは儲けることができたわけだが、
8000円を提示したAさんとBさんは売れなかったので、
商品は在庫として、倉庫に戻されることになる。
もちろん、Cさん以外は、一銭も儲からない。
Cさんの一人勝ちだ。
しかし当然、みんなだって、Cさんのように儲けたいわけだから、
次の競売のときには、みんなも価格を下げて、
7900円の値段を提示するようになる。
だが、それも長くは続かない。しばらくすれば……。
講師「では、オープンプライス」
A「7800円」
B「7900円」
C「7900円」
講師「はい、Aさんの商品が売れました」
という形で、徐々に値段が下がっていく。
他の人より、値段を下げなければ売れない。
売れなければ儲からない。
儲けるためには、他の人より安い値段を
つけなければならない。
そんな意識が、低価格化に拍車をかけていく。
A「さっき、7800円で売れたよな。
じゃあ、次は、7700円で売りに出そうか。
いや、それはみんなやるから、裏をかいて、7600円か?
いや、いっそ、7500円で出すか」
講師「では、オープンプライス」
A「7500円」
B「7400円」
C「7200円」
講師「はい、Cさんの商品が売れました」
A「うおおーー!そうきたかーw」
B「いやぁ、そろそろ、7500くると思ってたんだけどなあw」
C「あはははは、みんなわるいねえww」
こうして、いつしか市場の競売は、
「相手が下げてくるであろう値段を推測して、
さらにそれより値段を下げる」というゲームに変わっていく……。
ちなみに、これはやってみるとかなり楽しいし、意外に燃えるゲームである。
自分の予想通りの金額を相手が出して、
そのぎりぎりで勝ったときの喜びは格別なものである。
だが……。
講師「では、オープンプライス」
A「5100円」
B「5200円」
C「5100円」
講師「はい、5100円が最低価格です。AさんとCさんは同価格ですが、
Aさんが親(売りますと宣言した人)なので、Aさんの商品が売れました」
結局、その価格競争がたどり着く先にあるもの。
それはどうしようもないほどの薄利!!
っていうか、原価5000円ぎりぎりの値段設定なんて、
借金の利息も含めたら、完全に赤字である!
それでもみんなは、設備投資した工場をフル回転。
次から次へと、商品を大量に生み出し、
市場に流し込んでいく。
もちろん……、それらを売ったところで、
こんな薄利ではまったく儲けにならない!
ただ借金の金利がかさむだけという不毛な状態である!
だが、これだけではない!ついに、決定的なことが起こる!
講師「では、オープンプライス」
A「5100円」
B「5200円」
C「5100円」
D「4500円」
A&B&C「えええええ!4500円!?」
ついにきた原価割れ。
市場崩壊の引き金であった。